バイクで実家に向かっていると、突然「パンッ」と乾いた音が。カリッカリッと異音が発生し、これがイオンだったらさぞ健康に良いだろうと思いつつ停車した。見れば後輪に1cmほどの太さの鉄パイプが刺さっているではないか。何の部品だがわからないが、クギではなく鉄パイプがグサッとささっている。無理矢理にムリムリッとブツを抜いてみると、プシューッと音をたてて空気が抜けた。俗にこれをパンクという。ピストルズとかダムドとかあれである…………今、世界の中心で嘘をついた。
しかし、パンクしたのが大通りで良かった。川越街道はバイク屋が多いのだ。ブリブリとバイクを転がしながら近くのバイク屋に駆け込む。曇っていたとはいえ汗だくだ。
バイク屋の川相さん(元巨人現ドラゴンズのバイプレイヤーに似ていた)がおっしゃられた言葉を要約すれば、「ぶっさりと穴が空いちまってるからとりあえず応急処置はすっけども、そう長くもたないかもよ、犠打日本新記録すごい?」ってことだった。とりあえず、応急手当をしてもらって、実家に向かうことにする。
雑な運転で平素は世間様に大変ご迷惑をおかけしまくりチヨコな俺だが、このときばかりはパンクしたタイヤを気づかうセーフティドライブだった。その甲斐もあってか、時間はかかったもののホームタウンの狭山に入る。…………が、突如エンジンが停まる。再びエンジンをかけてみてもすぐに停まる。国際的な組織のテロ行為か、はたまた私の行動を煙たがる政府の陰謀か、疑惑はつのるばかりだが、ガソリンメーターはエンプティを指している。そういえば、実家に向かう前からエンプティを示していたことに気付く。「ノドがからっからなのによく頑張ったね、バイクくん」そうバイクのがんばりをねぎらう。
結局、ガソリンスタンドを探して、汗だくになりながらバイクを転がす。何十分か歩いて、ガソリンスタンドを見つけたとき、砂漠のオアシスのような喜びを味わう。しかし、ノドを潤したのはバイクだけなので、ラクダ専用のオアシスを見た気分であった。
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ようやく家に着いて、風呂に入ってから友人のスマイリーKくん宅へお邪魔した。石井先生が好きだった映画「パッチ・アダムス」を観るためである。着くと、スマKくんと人の顔に平気でグーパンチをかましてくるA女(エーオンナと読む)が料理に精を出していた。いや、よく見るとスマイリーKくんは料理の達人なので、A女はビールを飲んでいるだけだった。
スマKくんは料理がうまい。ビールを飲みながら飯が進む。ごはんがっ、ごはんがっ、ススムくん以上に進んだ。俺の結婚したい人ナンバー1にKくんがあっさりランクイン。飲みながら雑談ばかりしていたが、ひとしきり飲んだので映画を観ることにした。実は俺とKくんは「パッチ・アダムス」を観たことがあったので、何となく内容を覚えていたにも関わらず、俺とKくんは夢中になって観た。映画を観ようと言った張本人のA女は酒をかっくらい過ぎて寝息を立てている。いつものことながら、さすがである。
昔観たパッチ・アダムスは、俺の中では「おもしろい映画」だった。しかし、亡くなった石井先生が大好きな映画で、俺より下の先生の教え子たちは先生を「パッチ」と呼んでいたエピソードを知った後では、その映画は「すごくおもしろくて元気になる映画」になってた。
明け方、Kくん宅をA女と共に後にした。とりとめもない話をしながらだらだら歩いていると、なぜか夕立のような雨が降ってきた。びしょぬれである。パンク→ガス欠→びしょぬれ……スゴイ日だった。
で、結局、翌日もA女が「パッチ・アダムス」観ていないとの理由のみで、同じ1977年組の優しき豪腕Yも加わってKくん宅を訪れる。その日は僕ら77年組だけでなく、80年組から悩めるデジタルガールT、83年組から水少年A、芯のある大人女M、心優しき仕立屋Yもいっしょに飲んだ。しっかりした年下の人生の先輩を前に、77年組はやっぱりふわふわしていた。この日も酔っぱらって真剣に見られないという理由でパッチ・アダムスを却下したA女に、こいつは小学生の頃から変わってないなーと、変に安心した。同級生ってのはいいもんだ。
明け方、例によってA女とふらふらと家路に向かいながら、80年組、83年組の石井先生の教え子たちの素晴らしさに、あらためて石井典彦という人間も先生としても成長していったんだなと思った。先生すごいよ、俺は石井典彦が大好きだ。先生が作った芸術はみんなすげぇ輝いてる。俺も人生を芸術に捧げるよ、命の火が消えるその日まで悩んだり、喜んだり、腹たてたり、ガハハと笑いながら俺っていう芸術作品をズバッと磨きまくるよ。最近あちこちで泣きまくってるがしばらくは許せ。