
そんな矢先、クチコミ型のグルメ情報サイト「食べログ」の周辺がなんだか騒がしいことになっている。よく利用するサイトの1つなので、経緯を見守ってみることにした。
■ 食べログ
「食べログ」は、全国67.5万店舗を網羅し、300万以上の投稿(クチコミ)が寄せられるグルメ情報サイトだ。サイトでは、「一般ユーザーのリアルな口コミ、またそれをもとに算出されたお店の点数とランキングが特長」と謳われている。

前述した通り、僕は“ゴハンに対する情熱が異常”らしいがw、食べログの特長として謳われる“リアルな口コミ”と“ランキング”には興味がなく、投稿された写真が気になるので利用している。クチコミやランキングを参考にしないせいか、飲食店選びを失敗することも多々ある。失敗しないと正解だったときの喜びも小さいので良し、としている。ただ、多くの利用者においては、より美味しいものを失敗せずに、しかも評判/話題のものを効率的に食べたいから食べログを使っているんじゃないかな、と想像する。
■ 各社報道
そんな食べログにおいて、「クチコミがやらせだ!」という騒動が起こった。報道や識者のご意見などは「NAVERまとめ」というサービスにとりまとめてみた。ちなみにこのサービス、面倒くさいけど頭の中を整理するために使うと便利だよ。面倒くさいけどね。
食べログ、「やらせ」報道まとめ
http://matome.naver.jp/odai/2132588989927165701
で、内容をかいつまんでいうと、サービスの根幹をなすであろう、クチコミとランキングの部分について、複数の業者が「お金をくれたら、アナタのお店の良い評判を投稿しまっせ」と営業活動し、恣意的な情報操作がなされているんジャマイカ!? ということらしい。これを「やらせ」という言葉でパッケージングして、いろいろな報道機関や人(僕もそうだ)がお神輿担いでワッショイ! ワッショイ! とやっているような状況ってところだろう。

■ やらせ
アンパンマンは「やなせ」、輸入車といえば「ヤナセ」だが、では「やらせ」ってなんだろう?
デジタル大辞泉によると、それは『テレビのドキュメンタリーなどで、事実らしく見せながら、実際には演技されたものであること』で、大辞林によれば『事前にしめしあわせて事を行わせること』らしい。
ナマっぽいが実は仕込み、とういうのが「やらせ」のようだ。今回の場合、「クチコミサイトに投稿した一般ユーザーのふりをして、実際はお店からお金をもらった業者の投稿」がそれにあたるだろう。
■ 夢を見る
それを前提に「やらせ」をケシカラン! とした場合、クチコミやランキングに恣意的な操作が加わることで、食べログの信用力とコンテンツ力が失われてしまうよね、大問題だよねという話になる。そうなるから報道され、消費者担当の山岡大臣が調査すると発言したり、景表法(景品表示法)違反で問えないか? → やっぱ無理、みたいな話をするわけだ。
で、その状況を成り立たせているのは、つまるところ、食べログは件の業者がいなければ、純粋で健全な飲食店への感想が集まったコンテンツだよね、という幻想だ。幻想を維持するために、サービスを提供する側はすすを払っていく必要がある、ということなんだろう。
サービスは多かれ少なかれ、利用者に夢を見させて進んでいくものなので、幻想でいいと僕は思っている。夢って楽しいものだし、“美味しい”を追求する僕らと、“美味しい”を提供する飲食店側は、夢でつながっている。もし夢が見られないなら、その食事は空腹を充たすため、栄養を摂取するためだけのエサに近いものになってしまう。夢が見られる、幻想の中にいられる、それはとても幸せな状態なんだ。
■ 問題?
興味深いなぁと思ったのは、この話を最初に報じた(たぶん)のが日経新聞ってことだ。もし「やらせ」業者が横行しているとすれば、ネットでこの話題がもっと広がっている方が自然で、ネットにはこの手の話題が大好きな人たちがたくさんいる。これまで食べログ周りで話題になった代理店の営業手法などの話もたしかネット発だったかと思う。2011年までに述べ39業者が確認されたらしいが、300万以上のクチコミ投稿のうち、何件が発覚した業者の投稿だったんだろう? 気になるところだ。
自由にクチコミが投稿できるということは、それが必ずしも利用者のリアルな声ではないということだ。残念な話だけど、たとえば特定コミュニティの人たちで、とある店舗の評判を恣意的に下げることだって、大きな外食企業が、周辺にある競合店舗の評価を下げて自社を相対的に格上げすることだって、きっとできてしまう。
また、有名なレビュアーに内緒でお金を支払い、投稿してもらうことだってできなくはないと思う。そういうのを「ステルスマーケティング」とか「ステマ」なんて呼び方をするようだけど、善し悪しの話ではなく情報を取捨選択する能力が問われるネットならではのものだと思う。
仮に、日経新聞が報じる前の段階で、ネットにおいて問題が顕在化していないのだとしたら、それは問題だったのだろうか? と、ふと思う。今回の問題は、クチコミの中に恣意的な事実に反する情報が混じっていないとする、食べログ提供者側の幻想に立脚した上ではじめて問題として成立するものだ。ネットの利用者は、そこまでの幻想を食べログに期待しているものなんだろうか? タカアンドトシならきっと「マジメか!」とツッコむ気がする。
■ もんじゃの夢はどうにもとまらない
報道によると、月島のもんじゃ焼き屋さんでは、「やらせ」業者に依頼したことで行列店ができたという。評判の店に行ってみたいという利用者の想いは自然だとして、行列が行列を呼ぶのもまた人の心理だろう。この報道が事実だとすれば、ランキングへの影響が確認できなかったとするカカクコムの言い分は、ちょっとモヤモヤする。
はたして、クチコミやらランキングが良いのでこの店舗に行ったお客さんは、騙されたのだろうか? クチコミではステーキ屋だったのに、入店したら寿司屋だったならそれは騙されたのだろうけど、食べログで言うところのクチコミって、言い換えたら「噂」だ。作詞家の阿久悠先生は、山本リンダに「うわさを信じちゃいけないよ」と歌わせている。クチコミが噂であるってことを忘れちゃダメだ。「どうにもとまらない」のかもしれないが、きっといろいろな場面でその人は足下をすくわれるだろう。
ある記事では、今回の「やらせ」は「ネット情報の信頼性を揺るがす事態に発展する可能性」があるらしい。僕の十数年のネット体験が夢でなければ、有象無象の情報が漂い、正しいも正しくないも誤りも誤りでないも存在するのがネットの情報だ。記事の信頼性を揺るがしても、ネット情報の信頼性というよくわからないものははたして揺らぐのだろうか。ネットの情報は、酸いも甘いもかみ分けられることが望ましいが、かみ分けられないならば噛まずに保留しておくのが作法だ。
最後にする。今回の騒動で「揺るがす事態」があるとすれば、もんじゃ焼きって、評判の店もそうでない店も結局そんなに味が変わらないものなんじゃねーかなぁってわかってしまったことだ。今頃、月島あたりの評判の店を揺るがす事態になっているかもしれないが、そうならば新しい夢を提供して欲しいなぁと思う。
で、ここまで書いておいてなんだけど、結局、食べログの「やらせ」報道ってなんなのよ? 記事読んでもオピニオン読んでも、手応えのない夢のような状況は変わらない。カカクコムの株価が下がった以外の現実はあるのだろうか?